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Photo & Essay

◎  ムンク『アルファとオメガ』 

18日に東京上野の国立西洋美術館に行ってきました。
特別展『モネ 風景を見る眼』が開催されていて、
かなり混雑していますが、
それは先日見てしまったので、
今回は『エドヴァルド・ムンク版画展』がお目当てでした。

長い話になりますから、
お急ぎの方は始めの2枚だけ見て下さい。


1DSC06253.jpg

白梅と「考える人」

国立西洋美術館に行くと、
毎回といってよいほど、
前庭にあるロダンの「考える人」を撮ります。



2DSC06247.jpg

彫刻の展示室(窓際の廊下)に、
マイヨールの『夜』という彫刻が展示されていました。

ヌードの女性が、
お尻をついて、
立てた両膝の上で両腕を組んで、
そこに額を当てています。

伏せた、その顔に、
外からの光が当たって輪郭が光っていました。
見張り番の女性に、
「写真を撮ってもいいですか?」
と聞いたら、
「フラッシュをたかなければ・・・」
とのことでした。


さて本題のムンクです。


3IMGP4306.jpg

ムンク「叫び」。

ムンクといえば、この絵になりますが、
殆ど同じ構図の絵が何枚もあるそうです。

写真は、
10年ほど前に、
オスロのノルウェー国立美術館で撮ったものです。
今はどうか知りませんが、
この時は、
撮影自由でした。

広い1室がムンクの部屋になっていましたが、
監視員がいません。
これでいいのかなあ、
と思ったことでしたが、
それから間もなく、
同じノルウェーの、
ムンク美術館で「叫び」が盗難に遇いました。
「やっぱりなあ・・・」という気がしました。



4IMGP4304.jpg

ムンク「マドンナ」。

これもオスロの美術館のものですが、
「叫び」と同様、
いくつかのバージョンがあり、
ムンク美術館にあった「マドンナ」は、
「叫び」と一緒に盗難にあったそうです。


倉敷の大原美術館に別バージョンの「マドンナ」があります。
(下の写真)


5ムンク「マドンナ」

このバージョンでは左下に胎児の姿、
そして左右と上の茶色の縁取り部には精子が描かれています。
(ムンク版画展のものはこれと同バージョンでした)


大原美術館のカタログから解説を抜粋引用すると、

マドンナ(聖母)は、
中世、ルネッサンス以来、
西欧社会においては最も理想的な女性であった。
・・・・・・・・・・・・・・・・
ムンクにとって、
「マドンナ」とは、
宗教的、ないしキリスト教的意味を失った「女性」そのものの意味である。
ムンクは、
男と女、愛、嫉妬、不安、生と死など、
人間にとって最も根源的な問題を繰り返し追求し続けたが、
・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・
ムンクにとって、
「女性」の本質とはいったい何だったのであろうか。
それは生命の根源であると同時に、
男を捉え、魅惑し、苦しめ、悩ます魔性の存在であった。
・・・・・・・・・・・・・・・・



大原美術館の解説を引用したのは、
西洋美術館で見た版画展の半分を占めていた作品群、
『アルファとオメガ』の理解に役立つと思うからです。

これは19枚の版画からなるシリーズですが、 
ムンクが神経衰弱のため療養所に入院したとき、
医師の勧めに従って制作した物語で、
リトグラフ版画集『アルファとオメガ』として出版されました。



『アルファとオメガ』

この物語はアダムとイヴを連想させるものです。
アダムを思わせるアルファ(α)とイヴを思わせるオメガ(ω)と、
二人の男女が出会い、愛し合い、やがて・・・破滅に至ります。

西洋美術館の版画は下記で見ることができます。
ムンクの版画

1。
目次など。

2、
島で、アルファが裸で横たわっています。
そこへ、同じく裸で髪の長いオメガがやってきて、シダの葉で起こします。

3。
二人は仲良しになり、毎晩浜辺で、肩を寄せ合って過ごします。

4。
二人は森に入りました。
そこで恐怖を感じたオメガは、アルファの腕の中に・・・
(二人が結ばれたことを意味しているようです)
ここまで、島は毎日晴天でした。

5。
ある日、森の中で、オメガは大蛇と向き合っています。
アルファは、それを遠くから見ていました。
この日初めて雲が出て、やがて雨になりました。

6。
その後のある日、
アルファは森で大蛇と出会い、殺してしまいます。
(嫉妬ですね)

7。
オメガは、ハイエナと出会い、月桂冠を作ってかぶせてやります。
また、熊とも出会い、オメガは腕を熊の首に回しました。
(どちらも交わったことを示しているようです)

8。
オメガは、今度は虎と出会い、牙を撫でます。

9。
森の中で、虎と熊が出会い、激しく争い、互いに傷つきます。
虎は、熊にオメガの匂いを感じたのです。

10。
オメガは花を口に当てて、無邪気な少女のようです。

11。
オメガの眼は、貪欲です。

12。
オメガは鹿と出会い、口づけします。
アルファは、ダチョウの首にもたれて、遠くからそれを見ています。

13。
オメガは豚と出会い、見つめ合います。
(豚は貪欲のシンボルです)

14。
オメガが泣いています。
島中のすべての動物を自分のものにできないことを嘆いて・・・

15。
ある晩、オメガは鹿の背に乗って、海を渡り、別の島へ行ってしまいます。

16。
一人になったアルファの所に、
蛇やハイエナや熊や虎や鹿や豚などと交わって、
オメガが産んだ子どもたちがやってきて、
彼らは、
アルファに向かって、
「お父さん」と呼びました。
彼らは、人間もどきの動物たちでした。

17。
アルファは、絶望します。
(版画は、有名な「叫び」もどきになっています)

18。
ある日、鹿がオメガを連れて、島に戻ってきました。
怒り狂ったアルファは、
浜辺でオメガを殺してしまいます。
しかし、
死に顔の表情が、
森の中で愛していたときと同じだったので、
アルファは後悔します。

19。
オメガの死に顔から眼を離せなでいるアルファの背後から、
島の子どもたちとすべての動物たちが襲ってきて、
アルファを引き裂いてしまいました。



19枚の版画の中身のすべてが、
「マドンナ」の絵に籠められているのかもしれません。
また「叫び」の絵には、
アルファの苦悩が描かれているのかも知れません。

でも、
女性って、そんなに、魔性で、恐ろしい存在なのでしょうか???


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capucinoさん、こんにちは♪

最初のお写真、とても素敵です。
丸い蕾を付けた枝の間からちょうどよい具合に
考える人の頭部と手の部分が見えていますね。
梅の周りを歩かれて、どこから撮るのがよいのか
考えられたのかな、と思いました。
私なら単純に梅を上とか横とかに入れそうです(笑)

「叫び」や「マドンナ」は見たことありましたが
『アルファとオメガ』の版画は初めて見ました。
物語が面白かったです。
もしかしたらムンクの体験談だったりして~。
女性に振り回されて散々だったんじゃないのかな、なんて思いました(笑)
女性を愛したけど、愛されなかったのかな、とも・・・
女性って魔性の人もいるかもしれないですが
恐れるほどではないと思いますよ(笑)
capucinoさんはいかがですか?
女性って恐ろしいと思われますか?

2014/02/26(水) 11/51|URL|Mika [edit]

capucinoさん 

一枚目のお写真一際感嘆しました
構図の美的さ 完成度の高度さ
久しぶりに拝見したお写真に暫し見とれました
この時期ならではの 花
その白に意図的に回りこんでの撮影
枝や花や蕾の間から望むかのように彫刻を捉えています
また彫刻の背後には 常緑樹・落葉樹が調和を見せ 
それらの間からは青が隙間を埋めるかのようにあります
彫刻の水平垂直が保たれていますが
それは気持ちがよいほどです
技術 感性
芸術的に優れた作品
初春の代表作の一つになりますね

二枚目のお写真
彫刻の頭部を思いっ切りよく
きって撮影されています
そのことにより 印象深い作品になっています
私もマネキン撮影
お雛様撮影等でよくこの手法を用います
撮影方法
一部でもcapucinoさんに似通ることがあることがわかり 光栄に思いました

2014/02/26(水) 17/06|URL|香月 りら [edit]

Mikaさん、
コメントありがとうございます。

考える人と梅。
コラボの構図は、
梅の木の右に行き、左に行きして、
思案しました。
努力を認めて頂いて、嬉しいです。

アルファとオメガ。
とても長いのに、読んで頂き、有難うございました。
こんなに長く書いたのは、初めてです。
面白い物語でしたので、忘れないうちにと思って、
自分の記憶のためにもと、長々と書きました。

Wikipediaを見ると、
「何人かの女性と交際したが、生涯独身を通した。」
と書いてあります。
芸術家に有りがちなことですが、精神を病んでいたようです。

女性は優しくて、語り合えば楽しくて、
恐ろしい存在ではないと思っていますよ。(^_^)

2014/02/26(水) 20/37|URL|capucino [edit]

りらさん、
コメントありがとうございます。

初めてりらさんが私のブログを訪れてくれた時の写真も
「考える人」だったんですよね。
西洋美術館へ行くと、撮りたくなります。
今回はちょうど白梅が咲き始めていました。
過分のお褒め、有り難くお受けしておきますね。
写真の水平、垂直は、実は苦手で、パソコンで修正することもあるのですが、
この写真はピッタリ合っていました。

2枚目。
りらさんの撮り方と似ていれば、こちらこそ光栄です。
庭からの光が床に反射して顔に当るから、
鼻の中心より手前側にも光が回るのですね。

ブログへの復帰をお待ちしていました。
長い間の勤務、お疲れでしょうに、
早速コメントを下さり感謝しています。
これからもよろしくお願いしますね。

2014/02/26(水) 20/48|URL|capucino [edit]

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